よしの法律事務所コラム

2018.10.12更新

昨年12月13日に広島高裁が伊方原発の運転を差し止める決定を下しました(同年12月14日の当ブログで紹介)が、その保全異議審の決定となります。
広島高裁は、決定を取り消して、住民側からの伊方原発の運転差し止めを認めませんでした。
原決定で問題とされた火山の予測に関しては「検討対象火山の噴火の時期及び程度を数十年前の段階で相当程度の正確さで予測することは困難であるとの現在の火山学の水準のもとにおいて、原子力発電所の安全性の確保の観点から巨大噴火の危険をどのように想定すべきかについては、我が国の社会が自然災害に対する危険をどの程度まで容認するかという社会通念を基準として判断せざるを得ない。阿蘇カルデラにおいて阿蘇4噴火と同程度の破局的噴火が発生した場合、壊滅的被害が発生することになるが、現在の知見では、その前駆現象を的確にとらえることはできず、具体的予防措置を事前にとることはできない。その一方で、その発生頻度は著しく小さく、国は破局的噴火のような自然災害を想定した具体的対策は策定しておらず、その策定しようという動きがあるとも認められないが、国民の大多数はそのことを格別に問題にしていない。そうであれば、破局的噴火によって生じるリスクは、その発生の可能性が相応の根拠をもって示されない限り、原子力発電所の安全性確保の上で自然災害として想定しなくても安全性に欠けることはないとするのが、少なくとも現時点における我が国の社会通念であると認めるほかない」などと判断しました。

http://saiban.hiroshima-net.org/karishobun/decision.html
しかし、政府が世界最高水準の規制基準だと言っている規制基準にどうして「火山」を検討の対象とする必要があったのでしょうか?技術的に検討が必要な問題であるはずなのに「社会通念」という言葉を使って、検討の対象から外すという恣意的な判断としか思えず、裁判官の言う「社会通念」が何なのか、わからなくなる決定です。

弁護士吉野隆二郎

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2018.10.05更新

地球システム・倫理学会と一般社団法人全国日本学司会が主催して9月29日に東京大学農学部フードサイエンス棟1階中島ホールで開催された表記シンポジウムを見に行きました。台風24号のために上京するのを迷いましたが、スケジュールを日帰りに変更することで何とか無事にシンポジウムを見ることができました。会場は100名くらいの規模だったようですが、立ち見が出るほどいっぱいで、熱気を感じました。九州以外から参加されている方には、諫早湾干拓農地の営農の厳しさを発表した農業者の発言が衝撃的だったようです。私にとっては、福岡県立伝習館高校の教師や熊本県立岱志高校の教師及び生徒が、その活動の内容や韓国の順天湾の干潟の保全の取組を調査した結果を発表したことが印象に残りました。順天湾の例は参考にならないのではないかという後ろ向きの発言もありましたが、2000年のノリの大不作以降、有明海再生が叫ばれていながら、十分な成果が出ていない現状からすれば、外国の例でも参考になる点を探す努力をすることが重要ではないかと思います。高校の関係者の発言の中で、一度破壊した自然は簡単に回復しないので、できるだけ自然を破壊しないようにするのが重要だという趣旨の発言がありました。まったく、その通りであり、そのような考え方を高校時代に学べることは貴重だと思いますので、今後も同様の部活動を続けていっていただきたいと思いました。

シンポの風景

弁護士吉野隆二郎

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2018.09.22更新

昨年の8月28日~29日に続いて、9月14日に公共事業チェック議員の会の諫早湾の視察が行われました。今年は、前日に石木ダムの視察を行ったようです。
私は、よみがえれ!有明海訴訟弁護団を代表して、訴訟の経過等について説明をしました。国会議員は4名参加され、熱心に説明を聞いていただけました。
国が提案する基金案についての質問もありましたので、本当に有明海再生のために必要なのであれば裁判と関係なく基金を創設すべきであること、基金による和解をすることによって関係のない有明海再生事業が打ち切られる懸念があることなどを述べさせていただきました。
報道によれば、同会事務局長の初鹿衆議院議員が、営農者側が開門を求めて訴訟を提起した事実を重く捉え「これまでの農水省の主張は覆る。両者が納得する選択肢は開⾨以外なくなっている」と話したとのことです。
そのような認識が国会議員に広がっていくことを願います。

弁護士吉野隆二郎

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2018.09.17更新

柔道事故に関して地裁と高裁の判断が逆となった事案となります。1審の福岡地裁の判決は、本ブログにおいて、昨年5月30日付で紹介しています。報道によれば、本年9月6日付けで上告が棄却されたとのことですので高裁判決も紹介します。
高裁判決は、事故の態様について「一審原告AやEのそれぞれの行動が明らかに危険なものであったとは認められない」と原審の判断を変更した上で、「G教諭の上記指導方法は上記各手引書等の要請を概ね満たしていた」ことや「一審原告Aは、中学校3年間、柔道部に所属して多くの練習及び試合を経験したこと、本件事故当時の年齢や一審原告Aの本人尋問における供述内容等を考えると、G教諭の上記指導内容を理解し、柔道が怪我や事故の危険を孕む競技であり、無理に技を掛けたり、頭部を畳みに打ちつけることの危険性は十分認識していた」ことなどを理由に「G教諭の通常の授業課程における安全指導について不適切な点があったとは認められない」などと判断して、一審判決を取り消して、学校側の責任を認めない判断をしました。
しかし、その一方で高裁判決は「G教諭を含めたD高校の教諭らが、前年度の武道大会における2件の事故について詳しく調査した上で、本件大会での事故防止対策を具体的に検討した形跡が見当たらないことは、本件大会における事故防止策に不十分な点があったことを示すものといわざるをえず、また、生徒に本件大会前に練習試合を行わせたり、本件大会の開会式において、生徒に対して張り切りすぎて怪我をしないように改めて注意を行なうことは、生徒が本件大会の形式や雰囲気等により反則行為や無理に技を掛けるなどの危険な行為に及ぶことを防止するという観点からは望ましいといえる」とも述べています。
このような事故を防ぐためには、事前の事故防止対策を十分に検討することが重要ではないかと思われますが、その点が軽んじられているように読める内容であることが残念に思われます。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=87538

弁護士吉野隆二郎

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2018.08.31更新

東京都の都立高校の教職員が、各所属高の卒業式又は入学式において、国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の職務命令に従わなかったことを理由として、再任用や再雇用の際に不合格としたり、退職後に再任用職員等に採用しなかったことに対して、損害賠償を求めた訴訟の最高裁判決となります。
東京高裁は、本件の不合格などとした取扱は、「被上告人らが本件職務命令に違反したことを不当に重視する一方で、被上告人らの従前の勤務成績を判定する際に考慮されるべき多種多様な要素等を全く考慮しないものであって、再任用制度等の趣旨に反し、その運用実態とも大きく異なるものであるから、本件不合格等に係る都教委の判断は、客観的合理性及び社会的相当性を欠き、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用をしたものに当たる」と判断して、損害賠償の一部を認めました。
しかし、最高裁は「被上告人らの本件職務命令に違反する行為は、学校の儀式的行事としての式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらすものであって、それにより式典に参列する生徒への影響も伴うことは否定し難い。加えて、被上告人らが本件職務命令に違反してから本件不合格等までの期間が長期に及んでいないこと等の事情に基づき、被上告人らを再任用職員等として採用した場合に被上告人らが同様の非違行為に及ぶおそれがあることを否定し難いものとみることも、必ずしも不合理であるということはできない。これらに鑑みると、任命権者である都教委が、再任用職員等の採用候補者選考に当たり、従前の勤務成績の内容として本件職務命令に違反したことを被上告人らに不利益に考慮し、これを他の個別事情のいかんにかかわらず特に重視すべき要素であると評価し、そのような評価に基づいて本件不合格等の判断をすることが、その当時の再任用制度等の下において、著しく合理性を欠くものであったということはできない」と裁量権の範囲内であると判断して原判決を取り消して、被上告人らの損害賠償請求をすべて棄却しました。
1999年の国旗国歌法の成立の際には、当時の小渕首相も「新たに義務を課すものではない」との談話を発表していました。
しかし、この判決の考え方を前提とすれば、再雇用等が問題となる教員は、国家の斉唱をしないと、戒告等の注意処分を超えて、再雇用が認められず職を失うことになります。そうすると、再雇用等に関係する教員は、憲法で保障された思想良心の自由(憲法19条)が実質的に保障されないことになります。本当にそれでいいのか疑問に思われます。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87885

弁護士吉野隆二郎

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2018.08.22更新

薬剤師の時間外労働に関する賃金の支払いが争われた事案のようです。
東京高裁は、「本件では、業務手当が何時間分の時間外手当に当たるのかが被上告に伝えられておらず、休憩時間中の労働時間を管理し、調査する仕組みがないため上告人が被上告人の時間外労働の合計時間を測定することができないこと等から、業務手当を上回る時間外手当が発生しているか否かを被上告人が認識することができないものであり、業務手当の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことはできない」と判断していました。
最高裁は、雇用契約書などに「業務手当が時間外労働に対する対価として支払われる旨が記載されていた」ことや、実際に支払われた業務手当は「1か月当たりの平均所定労働時間(157.3時間)を基に算定すると、約28時間分の時間外労働に対する割増賃金に相当するもので」「実際の時間外労働等の状況と大きくかい離するものではない」ことなどを根拠に、業務手当の支払を時間外手当の支払いとみることができるとして、原判決を取消しました。
実際の労働状況と大きくかい離していないということは1つの大きな要素であったのではないかと思います。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87883

弁護士吉野隆二郎

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2018.08.07更新

平素は当事務所をご利用いただき誠にありがとうございます。
誠に勝手ながら、2018年8月13日(月)から8月16日(木)までお盆休みとさせていただきます。
ご迷惑をおかけいたしますが、よろしくお願い申し上げます。

弁護士吉野隆二郎

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2018.07.31更新

昨日、諫早湾干拓事業に関して、平成22年12月に確定した開門を命ずる判決に基づく強制執行をさせないために、国が提訴した請求異議訴訟の控訴審の判決が出されました。
佐賀地裁は、国の訴えを退けたのですが、福岡高裁は原判決を取り消して、漁業者らの強制執行を認めない判決を言い渡しました。
強制執行を認めない理由は、漁業者らの請求の基礎となっていた「共同漁業権」が平成25年8月31日で消滅したということでした。
しかし、免許の期間以外はまったく同じ内容の「共同漁業権」が存在することは判決も認めており、そのような形式的な判断で確定判決による強制執行をできないようにしなければならないのか理解できません。
そして、この判決は、平成22年12月に確定した判決が、国の準備のために3年間の猶予を与えたということを、あえて無視して判決文に記載していません。平成22年の確定判決の履行期限である平成25年12月より前に、漁業者らの強制執行ができる権利がなくなるという矛盾について隠そうとする意図が明らかだと思います。この点はあまり報道されていないようですが、司法制度の根幹に関わる重要な問題だと思います。
判決と同じ日に、この判決に関する日弁連の会長談話が出されました。この重要な問題を的確にとらえた内容だと思います。

https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2018/180730.html

弁護士吉野隆二郎

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2018.07.13更新

福島第一原発事故後の最初の判決である福井地方裁判所平成26年5月21日判決の控訴審の判決です。
原審である福井地裁は、大飯原発3号機及び4号機の運転の差し止めを認めましたが、この高裁判決は原判決を取り消して、運転の差し止めを認めませんでした。
高裁判決では「すなわち、我が国の法制度は、原子力発電を国民生活等にとって一律に有害危険なものとして禁止することをしておらず、原子力発電所で重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常に放出される危険性や、放射性廃棄物の生成・保管・再処理等に関する危険性に配慮しつつも、これらの危険に適切に対処すべく管理・統制がされていれば、原子力発電を行うことを認めているのである。そうすると、このような法制度を前提とする限り、人格権に基づく原子力発電所の運転差止めの当否を考えるに当たっても、原子力発電所の運転に伴う本質的・内在的な危険があるからといって、それ自体で人格権を侵害するということはできない。」という前提に立ちながら「もっとも、この点は、法制度ないし政策の選択の問題であり、福島原発事故の深刻な被害の現状等に照らし、ひとたび重大な原発事故が起きれば、大量の放射性物質が放出されるなどして、周辺住民等に広範かつ深刻な被害が生じるおそれがあり、しかも、被害が起きればそれが長期にわたって継続・拡大し、その回復が極めて困難であることなどを考慮して、我が国のとるべき道として原子力発電そのものを廃止・禁止することは大いに可能であろう。しかし、その当否を巡る判断は、もはや司法の役割を超えるものであり、国民世論として幅広く議論され、それを背景とした立法府や行政府による政治的な判断に委ねられるべき事柄である。」と原発を運転するかどうかは政治的な判断であって、司法の役割ではないという立場を明言しました。
原発が事故を起こした場合には、極めて重大な人権侵害が生じるにもかかわらず、その人権侵害に対する救済を最初から司法が放棄するというのは、司法の役割をどう考えているのか疑問に感じました。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=87868

弁護士吉野隆二郎

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投稿者: よしの法律事務所

2018.07.05更新

正社員と有期労働契約を結んだ社員との間の賃金待遇の格差が争われたもう1つの最高裁判決です。
パラセメントタンク車の運転手で、定年退職後に再雇用された嘱託社員のケースとなります。当該賃金種目の趣旨を個別に検討した上で、精勤手当(休日を除いて全ての日に出勤したものに与える手当)と超勤手当(時間外手当)について、不合理な差別であると判断しました。
しかし、その一方で、「能率給及び職務給が支給されないこと」「住宅手当及び家族手当が支給されないこと」「役付手当が支給されないこと」「賞与が支給されないこと」については区別が不合理とは認められないと判断しました。
定年退社後の再雇用ということから、上記のような判断になったと思われますが、少子高齢化社会で労働者が不足している現状において、熟練した労働者を確保していくという観点からすると、別の考え方もあるのかもしれないとは思います(政策論のようにも思えますが)。
いずれにせよ、正社員と有期労働契約を結んだ社員との賃金などの区別をどのような視点で定めればいいのかについては、今後の参考になる判例だと思います。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87785

弁護士吉野隆二郎

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投稿者: よしの法律事務所

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