よしの法律事務所コラム

2020.10.20更新

自宅建物の増築工事に関して,上告人から請負代金の請求の裁判が提訴され,被上告人から工事の瑕疵に対する損害賠償請求の裁判が反訴として提訴され,併合審理されていた事件において,上告人(施工者)側からの相殺が認められるかが争点となった事案のようです。原審では,相殺は認められていませんでした。
最高裁は「上記両債権は,同時履行の関係にあるとはいえ,相互に現実の履行をさせなければならない特別の利益があるものとはいえず,両債権の間で相殺を認めても,相手方に不利益を与えることはなく,むしろ,相殺による清算的調整を図ることが当事者双方の便宜と公平にかない,法律関係を簡明にするものであるといえる」と2つの請求権の関係について述べたうえで「これらの本訴と反訴の弁論を分離すると,上記本訴請求債権の存否等に係る判断に矛盾抵触が生ずるおそれがあり,また,審理の重複によって訴訟上の不経済が生ずるため,このようなときには,両者の弁論を分離することは許されないというべきである。そして,本訴及び反訴が併合して審理判断される限り,上記相殺の抗弁について判断をしても,上記のおそれ等はないのであるから,上記相殺の抗弁を主張することは,重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反するものとはいえない」と両者の弁論を分離することは許されないことを前提に相殺の抗弁を認めました。
瑕疵による損害賠償の請求をしている側に現実に賠償額が入らなくなるということが気になりはしますが,弁論を分離しないことが前提であれば,請負工事において1回の精算で解決できることを考えると,妥当な結論ではないかと思います。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89700

弁護士吉野隆二郎

福岡市博多区博多駅前2-10-12-208

投稿者: よしの法律事務所

2020.10.02更新

東京電力の福島第一原発の事故に関して、全国で30ほどの集団訴訟が係争中ですが、国と東京電力を被告とする高裁の判決としては最初のものになります。
仙台高裁は、津波の予見可能性について「地震本部は、一審被告国が平成7年の阪神・淡路大震災を機に、地震防災対策の強化を図ることを目的として制定された地震防災対策特別措置法に基づき設置され、海溝型地震の発生可能性について、海域ごとに長期的な確率評価を行っていた国の公的機関であるから、「長期評価」は、単なる一専門家の論文等とはその性格や意義において大きく異なるものであった」「「長期評価」の見解は、一審被告国自らが地震に関する調査等のために設置し、多数の専門学者が参加した機関である地震本部が公表したものとして、個々の学者や民間団体の一見解とはその意義において格段に異なる重要な見解であり、相当程度に客観的かつ合理的根拠を有する科学的知見であったことは動かし難い」といわゆる「長期評価」の信頼性を肯定して、「遅くとも平成14年末頃までには、福島第一原発にO.P.+10mを超える津波が到来する可能性について認識し得た」と判断しました。
そして「全ての事情を総合考慮すると、本件における経済産業大臣による技術基準適合命令に係る規制権限の不行使は、専門技術的裁量が認められることを考慮しても、遅くとも平成18年末までには、許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くに至ったものと認めることが相当であり、一審原告らとの関係において、国賠法1条1項の適用上違法となる」として国の責任を認めました。
さらに「原子力発電所の設置・運営は、原子力の利用の一環として国家のエネルギー政策に深く関わる問題であり、我が国においては、一審被告国がその推進政策を採用し、原子力発電所に高い安全性を求めることを明示しつつ、自らの責任において、一審被告東電に福島第一原発の設置を許可し、その後も許可を維持してきたものである等の本件に現れた諸事情を総合考慮すれば、本件事故によって損害を被った者との対外的な関係において、一審被告国の立揚が二次的・補完的であることを根拠として、その責任の範囲を発生した損害の一部のみに限定することは、相当でない。一審被告東電及び一審被告国は一審原告らに係る損害全体についての損害賠償債務を負い、これらは不真正連帯債務の関係に立つ」と判断して、事故の被害者に対しては、国と東京電力に同じ範囲の責任を認めました。
国自らが設置した地震本部の調査結果を裁判において否定しようとした国の態度が厳しく非難された内容だと思います。
高裁レベルで国の責任を認めた画期的な判決だと思います。
判決の要旨は以下のアドレスから見ることができます。

http://www.nariwaisoshou.jp/progress/2020year/entry-845.html

弁護士吉野隆二郎

福岡市博多区博多駅前2-10-12-208

投稿者: よしの法律事務所