よしの法律事務所コラム

2021.06.25更新

東日本大震災によるマンションの被害を大規模半壊とする罹災証明書に基づき,同マンションに居住する世帯主らに対し,被災者生活再建支援金を支給する決定がなされ,大規模半壊を前提とする支援金が支払われた後に,被害を一部損壊に修正する罹災証明書が発行されたことから,この支給を取り消す決定がなされた事案のようです。支援金の支給を受けた被災者は取消決定の取消を求め,逆に,事務の委託を受けて支援金の支給した公益財団法人は支援金の超過額の返還を求めていました。
最高裁は,被災者生活再建支援法における支援金の趣旨ついて「その目的を達成するための手段として,自然災害による被害のうち住宅に生じたものに特に着目し,その被害が大きく,所定の程度以上に達している世帯のみを対象として,その被害を慰謝する見舞金の趣旨で支援金を支給するという立法政策を採用したものと解される。そして,支援法は,その目的を達成するため,支給要件である被災世帯に該当するか否かについての認定を迅速に行うことを求めつつ,公平性を担保するため,その認定を的確に行うことも求めているものと解される」と判断しました。
そのうえで,「効果を維持した場合には,支援金の支給に関し,東日本大震災により被害を受けた極めて多数の世帯の間において,公平性が確保されないこととなる。このような結果を許容することは,支援金に係る制度の適正な運用ひいては当該制度それ自体に対する国民の信頼を害することとなる」「支援金は,都道府県の拠出金及び国の補助金が財源となっており,その全てが究極的には国民から徴収された税金その他の貴重な財源で賄われているところ,本件各支給決定の効果を維持した場合には,その財源を害することになる」「支援金の支給には迅速性が求められるところ,本件のような誤った支給決定の効果を維持するとした場合には,今後,市町村において,自然災害による被害の認定をして罹災証明書を交付するに当たり,その認定を誤らないようにするため,過度に慎重かつ詳細な調査,認定を行うことを促すことにもなりかねず,かえって支援金の支給の迅速性が害されるおそれがある」ことなどを根拠に,支給決定の取消を認め,支援金の超過部分の返還請求も認めました。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=90362
確かに,支給を受ける被災者の公平などを考えると,そのような結論になるのだとは思いますが,支援金が被災者に生じた被害の一部をカバーする金額にすぎないことを考えると,支援金を費消した後に,被災者に返還を求めることは酷のように思われます。本件は,罹災証明の認定の誤りの責任はどちらにもないということが前提のようなので,訴訟以外の解決方法がなかったのだろうかと思います(法制度の整備の問題なのかもしれませんが)。

弁護士吉野隆二郎

福岡市博多区博多駅前2-10-12-208

投稿者: よしの法律事務所


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