よしの法律事務所コラム

2019.07.27更新

1 本件は、確定判決を守らない被上告人国が、確定判決の執行力を奪うために提訴した訴訟です。これまで国が確定判決を守らなかった前例はありません。本件において、国が確定判決を守らないことを、裁判所が認めていいのか、ということが正面から問われています。三権分立の制度を前提にすれば、たとえ確定判決で命じられた義務を負った相手方が国であっても、判決に従うべきことは当然のことです。国が確定判決を守らないことを裁判所が認めるのであれば、誰も裁判所など信用しなくなります。本件は、司法のあり方が問われている裁判なのです。
2 原判決は、突如、控訴審から国が主張し始めたいわゆる「漁業権消滅論」を採用して、一審判決を取り消して、本件確定判決の執行力の排除を命じました。しかし、この判断は、漁業の実態に反するだけでなく、確定判決の文理解釈にも反するものでした。確定判決は、国が開門の準備のために少なくとも3年間の期間が必要だという主張をふまえて、国に3年間の猶予期間を与えました。よって、判決が確定後も、確定判決の効力が3年以上も継続することを当然の内容としていました。原判決は、この事情をあえて無視して、3年間の猶予期間前に権利が消滅してしまうという、考えられないような論理を採用しました。そのような論理がまかり通るのであれば、国民は裁判の主文の内容すら信用できないということになります。国民の信用がなければ司法制度は成り立ちません。日弁連会長が、判決当日に会長談話を公表しました。原判決の判断に対し「司法の役割を放棄したものと言わざるを得ない」と述べているのは、司法への信頼が損なわれることへの危機感のあらわれなのです。
3 本小法廷では、上告人らの上告受理申立理由のうち「民事訴訟法114条1項に関する法令解釈の誤り」が採用されました。言うまでもないことですが、「確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する」と定められています。今回、この論点が採用され、弁論が開催されることになりました。当然の結論であります。確定判決の主文は「判決確定の日から3年を経過する日までに、防災上やむを得ない場合を除き、国営諫早湾土地改良事業としての土地干拓事業において設置された、諫早湾干拓地潮受堤防の北部及び南部各排水門を開放し、以後5年間にわたって同各排水門の開放を継続せよ」という内容です。この判決主文を素直に読めば、判決確定から3年の猶予期間、さらに、その後の5年間にわたる排水門の開放の期間まで、上告人らの権利が継続することは当然に包含されていると解釈すべきです。原判決の誤りは明白であり、原判決は破棄されるべきです。
4 国は、答弁書において、「処分権主義」を根拠に、まったく別の権利関係があるかのような主張をしています。しかし、上告受理申立書で述べましたとおり、確定判決に至る審理経過において、平成15年8月31日の時点での免許期間の満了の際にも、訴えの変更手続を行うような訴訟指揮はなされませんでした。そして、国は本件訴訟で展開している論理の枢要な部分も主張していました。そのような審理経過からも、現在の国の主張は、前訴の審判対象に対する当事者の認識と乖離していることは明らかです。
また、国は、答弁書において、「漁業権消滅論」が認められない場合においても、別の請求異議事由の成立が認められるから、「本件各上告は棄却されるべきである」という趣旨の主張をしています。しかし、原審で主張したとおり、国のその他の主張は、考えられるあらゆる事情を述べたものであり、結局、いつの時点で事情が変更されたのかなど、不明確なものです。請求異議訴訟における判決は、債務名義の執行力を奪うという重要な効果を及ぼすものです。そのような不明確な主張で執行力が排除されるのであれば、司法の社会への信頼は失われることになります。
5 間接強制申立に関する本小法廷の平成27年1月22日決定において「本件各排水門の開放に関し、本件確定判決と別件仮処分決定とによって抗告人が実質的に相反する実体的な義務を負い、それぞれの義務について強制執行の申立てがされるという事態は民事訴訟の構造等から制度上あり得るとしても、そのような事態を解消し、全体的に紛争を解決するための十分な努力が期待されるところである」との付言がつけられました。本小法廷の6月26日付けの決定において、別件仮処分に基づく義務は確定判決に基づく義務となりました。しかし、この付言で述べられたように、本件を話し合いによって解決する必要性はむしろ高まっています。本件干拓農地に営農している農業者が開門を求めて提訴している現状をふまえると、一方的な内容を押しつけるような和解のやり方は適切ではありません。漁業者と農業者との間に複雑にからみ合った利害関係を粘り強く整理していくことが求められています。最高裁が、本件の判決にあたり、話し合いによる解決へ向けた適切な判断を行うことを期待します。

投稿者: よしの法律事務所

2019.06.28更新

上告棄却決定

昨日、私の事務所に2つの上告棄却決定が届きました。
5月31日付けで請求異議訴訟に関して最高裁の弁論が開かれることを報告したばかりなのですが、①開門を求めた裁判の訴えを退けた福岡高裁判決、②開門阻止を認めた長崎地裁の判決に対して、国が控訴しないことを阻止するために別の漁業者が独立当事者参加を申立てたところ参加を認めなかった福岡高裁判決のいずれもが、形式的に憲法違反や上告受理の理由に該当しないという理由で、上告棄却及び上告不受理という結論になっております。
しかし、当事者が異なる裁判の結論に過ぎませんので、司法制度の根幹である「確定判決」が守られるように、最高裁弁論へ向けた準備を進めていきます。

弁護士吉野隆二郎

投稿者: よしの法律事務所

2019.05.31更新

昨年7月30日付けの福岡高裁判決(昨年7月31日のコラム参照)に不服申立をしていたところ、7月26日に最高裁で弁論が行われることになりました。

http://www.courts.go.jp/saikosai/kengaku/saikousai_kijitsu/index.html
論点は1つに絞られており「既判力の客観的範囲について定めた民事訴訟法114条1項の解釈・適用」に関しての判断が示されます。
私は「司法制度の根幹に関わる重要な問題だ」と指摘していました。
最高裁で福岡高裁の判断が見直される可能性は高いように思いますが、原判決が見直されるように期日に向けた準備を進めていきます。

弁護士吉野隆二郎

福岡市博多区博多駅前2-10-12-208

投稿者: よしの法律事務所

2019.04.11更新

4月1日から1年間の任期で福岡県弁護士会の副会長(全県区)に就任しました。
基本的人権を擁護し、社会正義を実現する(弁護士法第1条)ために、今年度は弁護士会の役員として1年間努力させていただきます。

弁護士吉野隆二郎

福岡市博多区博多駅前2-10-12-208

投稿者: よしの法律事務所

2019.03.12更新

離婚に伴う慰謝料を、過去の不貞相手に請求できるのかが争点となったようです。原審の東京高裁は慰謝料を認めたようですが、最高裁は原判決を破棄して、慰謝料請求を認めませんでした。
その理由は、「夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが、協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても、離婚による婚姻の解消は、本来、当該夫婦の間で決められるべき事柄である。」「したがって、夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。」「以上によれば、夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対して、上記特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。」ということのようです。
不貞行為に基づき慰謝料請求と不法行為に基づく慰謝料請求の区別につき参考になる判例だと思います。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=88422

弁護士吉野隆二郎


福岡市博多区博多駅前2-10-12-208

投稿者: よしの法律事務所

2019.02.12更新

2月6日~7日にかけて、日弁連公害対策・環境保全委員会の委員として、三番瀬の調査に行って来ました。三番瀬とは、東京湾の最奥部で浦安市・市川市・船橋市・習志野市の東京湾沿いに広がる約1800haの干潟・浅海域のことです。干潟の部分は埋め立てられたため、浅海域しか残っていないというような説明に聞きましたが、浚渫土砂で埋め戻された部分も十分干潟の機能を有しているように思いました(カニの穴が多数ありました)。翌日からは寒波になったようですが、2月7日は暖かかったことから、様々な種類の鳥を見ることもできました。三番瀬の生態系には十分豊かさが残っているのだと思いました。夏には、貧酸素水塊の発生だけでなく、硫化分を含んだ青潮現象もみられるそうです。有明海の問題に関与していることから、閉鎖性水域の環境の悪化の現状については考えさせられました。貧酸素水塊の抑制には流動の回復しかないように思われますので、三番瀬の自然環境の回復の困難さを感じるとともに、有明海では、開門調査を行えば回復の可能性はあるのにどうして今まで開門調査が行えなかったのだろうかと残念に思えました。

弁護士吉野隆二郎

福岡市博多区博多駅前2-10-12-208

投稿者: よしの法律事務所

2019.01.30更新

諫早湾の排水門の開門を求めて、長崎県の諫早湾内の漁業者が長崎地方裁判所に提訴した裁判において、1月28日に、堤裕昭教授の証人尋問(主尋問)が行われました。堤教授の研究は現場での観測をその論拠とするもので、これまでも説得力があると思っておりましたが、有明海奥部の底質の状態から、過去に東側と西側で非対称性な流れがあったということを突き止めたのは、非常に大きな成果だと思います。そして、その非対称性な流れが、東側と西側で対称に近くなった結果として、有明海奥部の西側の流れが速くなることについて理論的にわかりやすく整理していただけました。公害等調整員会の原因裁定手続きにおいて、有明海湾奥部の西側の潮流が速くなっているという専門委員のシミュレーションの結果(例えば、下の図)や現地観測の結果をもって、潮受け堤防による締切りと潮流の減少との因果関係が否定されましたが、その判断が誤りであったことは明確になったと思います。

専門委員報告書

弁護士吉野隆二郎

福岡市博多区博多駅前2-10-12-208

投稿者: よしの法律事務所

2019.01.07更新

本日から、2018年の業務を開始いたしました。4月には弁護士としての経験年数が満20年を経過し、21年目に突入します。福岡市博多区の方を始め多くの方々へリーガルサービスを提供していくため今年も努力して参ります。

弁護士吉野隆二郎

福岡市博多区博多駅前2-10-12-208

投稿者: よしの法律事務所

2018.12.27更新

平素は当事務所をご利用いただき誠にありがとうございます。
誠に勝手ながら、2018年12月29日(土)から2019年1月6日(日)まで年末年始休業とさせていただきます。
ご迷惑をおかけいたしますが、よろしくお願い申し上げます。

弁護士吉野隆二郎

福岡市博多区博多駅前2-10-12-208

投稿者: よしの法律事務所

2018.12.19更新

いわゆる「振り込め詐欺」の新しい犯行態様なのですが、現金を入れた荷物を宅配便で発送させて、それを荷受人になりすまして受け取る役割を果たした者が、詐欺罪の共謀共同正犯になるのかが争われた事案となります。
最高裁は、無罪とした高裁判決を破棄して、有罪と判断しました。
その理由としては「被告人は、異なる場所で異なる名宛人になりすまして同様の受領行為を多数回繰り返し、1回につき約1万円の報酬等を受け取っており、被告人自身、犯罪行為に加担していると認識していたことを自認している。以上の事実は、荷物が詐欺を含む犯罪に基づき送付されたことを十分に想起させるものであり、本件の手口が報道等により広く社会に周知されている状況の有無にかかわらず、それ自体から、被告人は自己の行為が詐欺に当たる可能性を認識していたことを強く推認させるものというべきである」ことを前提に「被告人は、自己の行為が詐欺に当たるかもしれないと認識しながら荷物を受領したと認められ、詐欺の故意に欠けるところはなく、共犯者らとの共謀も認められる」と判断しました。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=88179
現金を詐取された被害者の心情を考えれば、そのような受取行為に関与すること自体の処罰の必要性が高いことはよく分かります。
しかし、詐欺罪は、財物に対する犯罪なので、その財物の内容が何なのかは、詐欺の故意を判断するうえで重要だと思われるのですが、その部分が抽象化されていくことは、刑事処罰の範囲が拡大していることにつながるように思えて、本当にそれでいいのかについてやや疑問が残ります。
とはいえ、このような形式の詐欺も増えているということが、本件を契機に社会に周知されて、協力する人がいなくなっていけばいいと思われるところです。

弁護士吉野隆二郎

福岡市博多区博多駅前2-10-12-208

投稿者: よしの法律事務所

前へ 前へ

SEARCH


ARCHIVE


CATEGORY