よしの法律事務所コラム

2022.03.31更新

諫早湾干拓の潮受け堤防の排水門の開門の問題に関して,国の開門義務を認めた確定判決に対して,執行力を排除するために国が提訴した請求異議訴訟の差戻審の判決となります。
福岡高裁は,「本件各確定判決は,暫定的・仮定的な利益衡量を前提とした上で,期間を限った判断をしているものであるから,争点の判断に当たっては,その予測の確実性の度合いを前提にしつつ,前訴の口頭弁論終結後の事情の変動を踏まえて,改めて利益衡量を行い,これを決するのが相当である。」「裁判所が認定した事情の変更に関する事実を踏まえて検討すると,口頭弁論終結時である現時点(令和3年12月1日)においては,本件各確定判決で認容された本件各排水門の常時開放請求を,防災上やむを得ない場合を除き常時開放する限度で認めるに足りる程度の違法性を認めることはできない。」「以上によれば,現時点においては,本件各確定判決に基づく強制執行は,権利濫用に当たり,又は,信義則に照らし,許されないものというべきである。」と判断して,国の請求を認めて,将来の強制執行を認めないという判断を示しました。
一般論として,確定判決等の債務名義に基づく強制執行が権利の濫用と認められる場合がありますが,最高裁昭和62年7月16日判決によれば「債権者の強制執行が,著しく信義誠実の原則に反し,正当な権利行使の名に値しないほど不当なものと認められる場合であることを要する」とされていますが,この高裁判決では,この要件について何らの判断もしていません。
そして,「事情の変動を検討する際には,たとえ事実としては,前訴の口頭弁論終結時よりも前に存在した事実であっても,その後の科学的知見等を踏まえ,新たな評価が行われた事実関係等については,これを考慮した上で現時点で改めて検討・判断するのが相当である」とも判断していますが,「異議の理由は,確定判決の基準時より後に生じたものに限られる」という請求異議訴訟の一般構造に反する内容になります。
その一方で,「本件潮受堤防の閉切り前との比較で,諫早湾及びその近傍部における魚類の漁獲量が回復しているとはいえず,その意味では,被控訴人らへの影響は,依然として深刻ではあり,控訴人が主張するように被控訴人らの漁業被害が回復したとはいい難い」とも述べており,漁業被害が回復していないのに,どうして請求異議が認められるのか理解に苦しみます。
差戻前の最高裁判決において,菅野裁判長は補足意見で「一般的にいえば,前訴の口頭弁論終結後の事情の変動等により確定判決に基づく強制執行が権利の濫用となるということは,例外的な問題であって,安易に認められるべきものではないことは,論をまたないところである」と述べていますが,権利濫用を安易に認めたと言わざるを得ない判決だと思います。
有明海漁民・市民ネットワークからも「諫早湾干拓「開門」確定判決への請求異議訴訟差し戻し審における福岡高裁の不当判決に抗議する」という声明も出されております。

http://ariake-gyomin.net/info/220329seimei.html

弁護士吉野隆二郎

福岡市博多区博多駅前2-10-12-208

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