よしの法律事務所コラム

2020.08.03更新

中学校の教員が懲戒処分の取消や損害賠償を県の教育委員会に求めた裁判に関する最高裁の判決です。
①顧問を務める柔道部の部員間の暴力行為を伴ういじめの事実を把握しながら,被害生徒の受診時に「階段から転んだことにしておけ。」と,虚偽の説明をするよう指示したこと,②加害生徒の近畿大会への出場を禁止する旨の校長の職務命令に従わず同生徒を出場させたこと,③部活動で使用していた校内の設置物に係る校長からの繰り返しの撤去指示に長期間対応しなかったことの3つを理由に,免職の次に重い6か月間の停職処分がなされた事案のようです。
1審は請求を棄却したようですが,大阪高裁は,①ないし③の事実にも酌むべき事情があることや,懲戒処分についての処分基準を定められていなかったことなどを理由に,社会通念上裁量権の範囲を逸脱していたなどとして,懲戒処分の取消したようです。
最高裁は,大阪高裁の判決のうち教育委員会の敗訴部分を破棄して,1審の結論を支持(控訴棄却)と判断しました。
その理由は,①の行為について「いじめを受けている生徒の心配や不安,苦痛を取り除くことを最優先として適切かつ迅速に対処するとともに,問題の解決に向けて学校全体で組織的に対応することを求めるいじめ防止対策推進法や県いじめ防止基本方針等に反する重大な非違行為であるといわざるを得ない」ことから「いじめの事実を認識した公立学校の教職員の対応として,法令等に明らかに反する上,その職の信用を著しく失墜させるものというべきであるから,厳しい非難は免れない」と厳しく批判し「本件処分の理由とされた一連の各非違行為は,その経緯や態様等において強い非難に値するものというほかなく,これが本件中学校における学校運営や生徒への教育,指導等に及ぼす悪影響も軽視できない上,上告人や市の公立学校における公務への信頼をも損なわせるものであり,非違行為としての程度は重いといわざるを得ない」と非違行為を評価したうえで「本件処分は,本件懲戒条例の下では免職に次ぐ相当に重い処分であり,また,処分の量定に関する上告人の主張には,個々の加重事由の考慮方法が形式的に過ぎるなど,直ちに首肯し難い点もあるものの,前記のような一連の各非違行為の非違の程度等を踏まえると,被上告人に対する処分について,県教委が停職6月という量定を選択したことが,社会観念上著しく妥当を欠くものであるとまではいえず,県教委の判断が,懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものということはできない」と結論づけました。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89559
いじめが社会問題化していることを最高裁が重視した判断のように思います。スポーツの関係者からは厳しいという意見もあるのではないかとは思いますが,私がスポーツ指導者の研修の講師をした経験から考えても,「暴力・体罰の禁止」は言われ続けていることでもありますので,このような最高裁の判断はやむを得ないように思いました。

弁護士吉野隆二郎

福岡市博多区博多駅前2-10-12-208

投稿者: よしの法律事務所


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