よしの法律事務所コラム

2020.07.01更新

交通事故に関して,被用者が使用者に求償することの可否が争点になった判例になります。
最高裁は「民法715条1項が規定する使用者責任は,使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にあることや,自己の事業範囲を拡張して第三者に損害を生じさせる危険を増大させていることに着目し,損害の公平な分担という見地から,その事業の執行について被用者が第三者に加えた損害を使用者に負担させることとしたものである。このような使用者責任の趣旨からすれば,使用者は,その事業の執行により損害を被った第三者に対する関係において損害賠償義務を負うのみならず,被用者との関係においても,損害の全部又は一部について負担すべき場合があると解すべきである」ことや「使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合には,使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対して求償することができると解すべきところ,上記の場合と被用者が第三者の被った損害を賠償した場合とで,使用者の損害の負担について異なる結果となることは相当でない」ことなどを根拠に「被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え,その損害を賠償した場合には,被用者は,上記諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について,使用者に対して求償することができるものと解すべきである」と判断して,求償を認めなかった判決を破棄して大阪高裁へ差し戻しました。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89270
本件は,使用者が,貨物運送を業とする資本金300億円以上の株式会社であり,全国に多数の営業所を有しているにもかかわらず,その事業に使用する車両全てについて自動車保険契約等を締結していなかったのに対し,被用者が自らで損害賠償訴訟の応訴の負担を負い合計で2800万円以上の賠償金を支払っていたという事案であることからも,最高裁の判断は妥当なものと思います。

弁護士吉野隆二郎

福岡市博多区博多駅前2-10-12-208

投稿者: よしの法律事務所


SEARCH


ARCHIVE


CATEGORY