よしの法律事務所コラム

2017.09.15更新

水俣病に関する最高裁の判決です。確定判決によってチッソから損害賠償を受け取った原告が、水俣病の特措法によって、水俣病の認定を受けた者とみなされることになったことから、熊本県知事に対し、公健法25条1項の規定に基づく障害補償費の支給を請求した事案です。
福岡高裁は「公健法13条1項は、損害が塡補された場合、その価額の限度で補償給付を支給する義務を免れると規定するにとどまり、補償給付の額及び損害の塡補額を考慮することなく、およそ補償給付の支給義務が免除されるとは定めていない。また、同法に基づく補償給付の制度は、純粋な損害塡補以外の社会保障的な要素を含むものと解されるから、前訴確定判決に基づく賠償金をチッソが完済したことによって熊本県知事が当然に当該補償給付の支給義務を全て免れると解することもできない」として不支給処分を取り消していました。
最高裁は水俣病の補償の仕組みを前提に「同法4条2項の認定を受けた疾病による健康被害に係る損害の全てが塡補されている場合には、もはや同法に基づく障害補償費の支給によって塡補されるべき損害はないというべきであるから、都道府県知事は、同項の認定を受けた者が、当該認定に係る疾病による健康被害について原因者に対する損害賠償請求訴訟を提起して判決を受け、これにより確定された民事上の損害賠償義務の全ての履行を既に受けている場合には、同法に基づく障害補償費の支給義務の全てを免れると解するのが相当である」と判断して、福岡高裁の判決を取り消して、請求を認めませんでした。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87053
水俣病の被害者への救済の観点からすると、社会保障的な要素も障害補償費の支給を認めるという考え方も十分に説得力があるように思えます。
水俣病特措法第3条において「この法律による救済及び水俣病問題の解決は、継続補償受給者等に対する補償が確実に行われること、救済を受けるべき人々があたう限りすべて救済されること及び関係事業者が救済に係る費用の負担について責任を果たすとともに地域経済に貢献することを確保することを旨として行われなければならない」と定められていることとの関係をどう考えればいいのか、考えさせられる判決になります。

弁護士吉野隆二郎

福岡市博多区博多駅前2-10-12-208

投稿者: よしの法律事務所


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