よしの法律事務所コラム

2023.03.29更新

2023年3月28日
よみがえれ!有明訴訟弁護団

 本日、福岡高等裁判所は、諫早湾内の漁民が開門を求めて提訴した諫早湾内開門請求2陣3陣訴訟について、一審の請求棄却判決に対し控訴した控訴人らの控訴を棄却する不当判決を言い渡した。
 本判決は、諫早湾干拓事業による干潟の水質浄化等の機能の喪失に加え、潮受堤防締切りによる潮流速の低下、成層化、貧酸素化の進行、赤潮の発生件数の増加、底質環境の悪化等の要因が複合して、諫早湾の漁場環境の悪化を招来し、諫早湾におけるタイラギ漁業及び漁船漁業の漁獲量が減少し、かかる状態が将来にわたり継続することが予想されることから漁民らの漁業行使権が一部侵害されていることを認めながら、漁民らの漁業行使権の性質やこの事業が高い公共性、公益性を有すること、開門による被害が生じることなどを理由として開門請求を否定した。
 本訴訟においては、原審である長崎地裁で取り調べられた証拠に加え、控訴審で実施された佐藤正典証人尋問によって、干潟を含む汽水域の重要性とそれが潮受堤防締切りによって失われたが開門することによって回復することが明らかになり、潮受堤防締切りと諫早湾内の漁業被害との因果関係が更に疑いのないものとなっていた。この点については、本判決も認めざるを得なかったものである。
 しかし、この判決は、漁民らの被害が極めて深刻であること、既に開門による被害発生は防止できることが十分に証明されていることなどを無視して、漁民らの漁業行使権の性質や事業の公共性、公益性、開門による被害を総合考慮したとして開門請求を棄却したものであり、漁民らの請求を棄却する結論ありきの判断で、到底受け入れることはできない内容である。
 したがって、漁民らは、この福岡高裁の不当判決を破棄し、漁民らの開門請求を認めるとの正当な判断を勝ち取るため、最高裁判所に上告等を行うつもりである。
 もっとも、今回の不当判決によっても、我々が繰り返し主張してきた、諫早湾干拓をめぐる紛争の一体的解決のためには話し合いによる解決しかないという我々の立場は全く変わることはない。
今回の結論ありきの不当判決においてでさえも、潮受堤防締切りにより諫早湾内の漁場環境が悪化し、漁獲量が減少したことを認めざるを得なかったのであり、国はその事実を真摯に受け止めるべきである。特に、国は、2010年の開門判決の勝訴漁民だけでなく、それ以外の多数の漁民が、この判決で認められたように潮受堤防締切りによる漁業被害を受けていることを受け止め、全ての漁民の被害を回復するために尽力しなければならない立場にあることを認識しなければならない。
我々としては、今後も国や関係自治体等と話し合いを続け、有明の再生に向けて尽力していくつもりである。
以 上

投稿者: よしの法律事務所

2023.03.03更新

令和5年(2023年)3月2日
よみがえれ!有明訴訟弁護団

 本日、最高裁から、令和4年(2022年)3月25日に言い渡された福岡高裁の請求異議差戻審不当判決に対する上告及び上告受理申立事件について、3月1日付上告棄却及び不受理の決定が郵送されてきた。

 上告及び上告受理申立の対象になった令和4年(2022年)3月25日言い渡しの福岡高裁請求異議差戻審判決は、差戻審口頭弁論終結時の令和3年(2021年)12月1日時点においては、平成22年(2010年)12月の福岡高裁開門確定判決の口頭弁論終結時から事情が変動しており、同確定判決に基づく開門請求を認めるにたりる程度の違法性を認めることはできず、同確定判決に基づく強制執行は権利濫用又は信義則違反になり、許されないなどと述べて国の請求異議を認容した。
 しかしながら、確定判決に基づく強制執行が軽々に権利濫用と判断されることになると民事訴訟制度の根幹が揺らいでしまう。そのため、最高裁は昭和62年判例において「著しく信義誠実の原則に反し,正当な権利行使の名に値しないほど不当なものと認められる場合であることを要する」と、厳格な判断基準を示していた。ところが、令和4年(2022年)3月25日言い渡しの福岡高裁請求異議差戻審判決は、このような最高裁判例の厳格な基準には一言も触れず、そうした厳格な基準に基づく判断を放棄する不当なものであった。
 認定された事情変更の事実は、中心的争点となった漁獲量に関して言えば、この判決の認定は、漁獲量が全体的に増加傾向にあり,確定判決の口頭弁論終結時である2010年頃の数値からの改善がみられるなどというものであるが、他方で、判決みずから、被控訴人である漁業者側の言い分を踏まえると、単純な評価は困難と言わざるを得ないと述べるなど、自らの判断への自信のなさを露呈しており、最高裁判例の「著しく信義誠実の原則に反し,正当な権利行使の名に値しないほど不当なものと認められる場合であることを要する」という厳格な判断基準からすると、こうした杜撰な判断で確定判決に基づく強制執行を権利濫用とすることが許されないことは明らかである。

 今回の最高裁決定は、このように不当性の明らかな令和4年(2022年)3月25日言い渡しの福岡高裁請求異議差戻審判決について、昭和62年判例の判例変更すら行わず、全員一致で棄却及び不受理としたものであって、憲政史上初めて確定判決に従わなかった国を免罪し、司法本来の役割を放棄したものと言わざるをえない。

 今回の最高裁決定の対象となった令和4年(2022年)3月25日言い渡しの福岡高裁請求異議差戻審判決は、付言のなかで、この判決によって「有明海周辺に実際に生じている社会的な諸問題は、直ちに解決に導かれるものではあり得ない。」などと自ら言い渡した判決の無力さを嘆きながら、「国民的資産であり、人類全体の資産でもある有明海の周辺に居住し、あるいは同地域と関連を有する全ての人々のために、双方当事者や関係者の(中略)全体的・統一的解決のための尽力が強く期待されるところである。」と述べた。
 いうまでもなく、今回の最高裁決定の射程距離は、平成22年(2010年)12月の福岡高裁開門確定判決に基づく強制執行は、福岡高裁差戻審の口頭弁論終結時である令和3年(2021年)12月1日時点においては権利濫用又は信義則違反になり許されないというものにすぎず、同判決の当事者ではなく、同判決に拘束されない多くの有明海の漁民や沿岸住民等の運動になんら制約をもたらすものではない。また、当事者も含め、将来の被害救済のための運動や訴訟についても何ら制約をもたらすものではない。その意味では、付言の述べているように、今後も、紛争解決に向けた「全体的・統一的解決のための尽力」は引き続き重要である。
 差戻審の過程において、福岡高裁が令和3年(2021年)4月28日に「和解協議に関する考え方」を発表して示した、紛争全体の、統一的・総合的・抜本的解決のため、「国民的資産である有明海の周辺に居住し、あるいは同地域と関連を有する全ての人々のために、地域の対立や分断を解消して将来にわたるより良き方向性を得る」という和解協議の歴史的意義を踏まえた広範な関係者の話し合いによる解決が、紛争が深刻化、長期化、複雑化した今日においては、唯一の解決方法であることは論を待たない。

 採貝、漁船漁業の被害は言うに及ばず、近年はノリ養殖においても甚大な被害が続いている。有明海漁業を持続するためには、有明特措法に基づく被害漁民の緊急救済が強く求められている。こうした被害を生み出さない根本的解決のため、有明海再生に向けた開門と開門調査は不可欠である。
 わたしたちは、そうした漁業者の利害関係を堂々と掲げ、有明海沿岸の人々それぞれの利害関係にも配慮しながら、真摯に話し合いに臨む所存である。
 福岡高裁が差戻審における「和解協議に関する考え方」で述べたように、「国民的資産である有明海の周辺に居住し、あるいは同地域と関連を有する全ての人々のために、地域の対立や分断を解消して将来にわたるより良き方向性を得る」ことを目指し、いまこそ、紛争解決のための話し合いの実現を広く呼びかける。
以上

投稿者: よしの法律事務所


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