2016.06.06更新

民法第968条1項によれば、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と規定されています。この「印」につき「花押」(署名の代わりに使用される記号・符号)が該当するかが争われた事件です。
最高裁は「民法968条1項が、自筆証書遺言の方式として、遺言の全文、日付及び氏名の自書のほかに、押印をも要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるところ、我が国において、印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い。」「花押を書くことは、印章による押印と同視することはできず、民法968条1項の押印の要件を満たさないというべきである。」と判断しました。
本人の同一性及び真意を確保するなら、印鑑でなくてもいいようにも思いますが、最高裁は「印」という形式面を重視したようです。
遺言書は形式的な要件を充たすように十分に検討して作成しなければならないということを再認識させられた判決です。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85930

弁護士吉野隆二郎