2016.01.23更新

Q 賃借していた居住用の建物から転居した後に、貸主に敷金の返還を請求しましたところ、預けていた敷金以上の補修費がかかったとして、敷金を返してもらえません。敷金はまったく返してもらえないものなのでしょうか。

A 賃貸住宅の退去時における原状回復をどの範囲で行うのかについては、トラブルが急増し、社会問題化しています。
そのため、国も基準作りが必要であると考え、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(国土交通省住宅局:平成23年8月)というものが作られています(インターネット上で公開されています)。このガイドラインでは、「原状回復」を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下「損耗等」という。)を復旧すること」と定義しています。すなわち、経年変化によるような損耗について、原則として、賃借人が補修費を支払う必要はありません。また、補修を負担する場合であっても、可能な限り毀損部分に限定して、補修工事が可能な最低限度を施工単位とすることを基本としています。よって、全面的な壁の貼り替えなどは、原則として賃借人の負担にはなりません。
裁判所においても、以上のようなことを前提に、「賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負うためには,賃借人が補修費用を負担することになる上記損耗の範囲につき,賃貸借契約書自体に具体的に明記されているか,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識して,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要である」(平成17年12月17日最高裁判決)という判断を下しています。

弁護士吉野隆二郎