2016.03.25更新

珍しい条文の判例です。民法第910条は「相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する」と定めています。遺産分割終了後に、認知の裁判で勝訴した相続人(子)が、価格の請求(金銭請求)をした場合に、①遺産の価格を評価するのはいつの時点か、②いつから遅滞になるのか(いつから遅延損害金が発生するのか)が争点となった事例です。①については、「価格の支払いを請求した時点」で、②「期限の定めのない債務」なので履行の請求を受けたときに遅滞になるという高裁の判断が正しいことを認めました。素直な解釈をすればそのとおりかなという気がします。

弁護士吉野隆二郎

2016.03.17更新

JR東海が訴えたあの有名な事件の最高裁判決です。結論等は、新聞報道のとおりですが、以下のような一般論を展開しています。
「法定の監督義務者に該当しない者であっても,責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には,衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり,このような者については,法定の監督義務者に準ずべき者として,同条1項が類推適用されると解すべきである。」
そして、具体的に責任を負うのかについては、「その上で,ある者が,精神障害者に関し,このような法定の監督義務者に準ずべき者に当たるか否かは,その者自身の生活状況や心身の状況などとともに,精神障害者との親族関係の有無・濃淡,同居の有無その他の日常的な接触の程度,精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情,精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容,これらに対応して行われている監護や介護の実態など諸般の事情を総合考慮して,その者が精神障害者を現に監督しているかあるいは監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し精神障害者の行為に係る責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観点から判断すべきである。」という基準を述べています。
本件では、家族の責任は否定されましたが、逆に、一定の場合には家族が責任を負わなければならないケースも出てくることになる判断基準であり、この判例が出たからといって、すべてが解決ということにはならないようです。

弁護士吉野隆二郎

2016.03.10更新

引き続き、2月23日の午後は、「生物・水産資源・水環境問題検討作業小委員会」(第12回)が開催されました。この中で、「再生へ向けたケーススタディ」として2つの事例が紹介されました。1つは「カキ礁の再生」として、有明海湾奥東側のカキ礁のバイオマスが現況の2倍になった場合のシミュレーションを行ったところ、有明海の底層溶存酸素が3mg/lを下回る水塊の容積が現況よりも最大で約2割小さくなったという報告がなされました。そのシミュレーションによれば、有明海湾奥東側のカキ礁の影響が、有明海湾奥西側だけでなく、諫早湾内にも及ぶようです。諫早湾内の漁業環境の悪化の影響は有明海奥部には及ばないと国は言い続けているのですが、どうして、有明海湾奥部東側の改善の影響は、諫早湾に及ぶのでしょうか。これまでの国が根拠とするシミュレーションの信用性が疑われます。海はつながっているのですから、このように、有明海湾奥部と諫早湾が互いに影響を及ぼし合うということは当然だと思うのですが。

弁護士吉野隆二郎

2016.03.04更新

2月23日に熊本国際交流会館で行われた表記小委員会の傍聴に行ってきました。午前には、「海域再生対策検討作業小委員会」(第12回)が開催されました。今年中に委員会報告(平成19年以降の議論のとりまとめ)を作成するために、有明海・八代海を海域ごとにわけて「問題点と原因・要因の考察」のとりまとめの作業のための議論がされていました。そもそも、有明海・八代海の海域の状況が悪化していることから、それを再生するために何をすべきかを議論すべき委員会だと私は理解しているのですが、調査データが2000年代前半くらいからしかないため、そのデータを前提にすると変化がない、というような結論が繰り返されている内容でした。さすがに、ある委員の方が、例えば、「ベントスの減少」という項目について「変化が見られない」というような結論だけであれば、問題点や原因の分析になっていないのではないか、という真っ当な指摘をされていました。結局、2000年のノリの大不作以降のデータがどれだけ充実しても、過去に十分な調査データがない以上、同じ議論の繰り返しにしかなりません。だからこそ、諫早湾干拓事業の有明海に及ぼした影響について調査するために、開門調査をすべきという結論に向かうべきなのに、相変わらず諫早湾干拓事業の問題は、タブー視し続けています。これでは、有効な再生策の提言など、まったく期待できません。

弁護士吉野隆二郎