よしの法律事務所コラム

2017.05.09更新

諫早湾干拓事業によって設置された南北の排水門の開門(海水交換を行うこと)に関して、福岡高裁は、平成22年12月6日に開門を命じる判決を言い渡し、それは上告されずに確定しました。この判決(前提となる仮処分も含めて)は、その確定判決と矛盾する司法判断と言われています。
そもそも、この2つの判断は矛盾するものではありません。福岡高裁の確定判決は、国に対して3年間の猶予期間を与えました。それは、開門すると被害ができることを心配している農業者に対して、万全な被害対策を行わせるためでした。逆に言えば、国が被害対策のための工事を誠実に行っていれば、このような判断にはなりませんでした。
長崎地裁は判決において、開門したら甚大な被害が出ると述べています。しかし、その内容は、例えば、国が予算措置を講じていた3-2開門(調整池の水位を-1.2~-1mの間で管理する開門方法で、調整池の水位は開門しない状況と変わらない)については、①風速5メートル以上の強風が4日間程度継続する場合(平成1年から平成23年まででわずか6回しかない)に潮風害のおそれがあることや、②ブロッコリー栽培(4名)とアスパラガス(1名)にしみこみ塩害が生じるおそれがあることなど極めて限定された被害でしかありませんでした(この程度であれば、これまでの判例であれば、補償で済むと一蹴されておかしくありません)。
また、この裁判には、確定判決の当事者を含む漁業者らが補助参加人として手続に参加していました(私はその代理人の1人です)。そして、補助参加人として、開門による漁場環境改善効果を主張しましたが、国が国の主張と抵触する旨主張したことを根拠に、「被参加人の訴訟行為と抵触するため、本件訴訟において、その効力を有しないものである」と長崎地裁に判断され、確定判決の根拠となった漁業被害は判決の判断材料になりませんでした。
このように国が自ら負けたような内容であるにもかかわらず、農水大臣は控訴しないという方針を示し、実際に控訴手続を行いませんでした(別の漁業者が、独立当事者訴訟の参加申立をして、かつ、控訴手続を行ったため、審理はいずれにせよ福岡高裁に移ることとなります)。
これからも開門を目指して活動を続けていきます。

弁護士吉野隆二郎

福岡市博多区博多駅前2-10-12-208

投稿者: よしの法律事務所


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